楽器の上達具合は、選んだ練習曲によってかなり違うように思える。効果的な練習曲選びのポイントは、まず、自分の好きな曲かどうかだろう。好きなプレイヤーの好きな曲は、メロディや装飾音まで頭に入っているので、楽譜に釘付けにならずにすむ。また、難易度というのは案外分かりづらいもので、楽譜がそれほど音符で混み合ってなくても、妙に雰囲気がつかみづらかったり、指使いがアクロバットなものもある。逆に言うと、好きな曲なら多少ややこしそうでも、チャレンジしてみる価値がある。
動画サイトなどで、良いお手本演奏や伴奏を見つけることも大事だ。こういう動画には、バラードかボサノバかといった曲のスタイルや、速さ、コードなどさまざまな情報が詰め込まれているので、例えば伴奏動を流しながら、楽器を持たずに鼻歌だけ歌っていても練習になってしまう。
私が最近手掛けてみて、良かったのが「Fly Me to the Moon」だ。練習に使ってる伴奏動画はこれ。
この曲の何が良いかといって、メロディラインが「ドシラソファソラド、シラソファミ…」と、まるで音階練習のような並びなので、次に弾く音の指使いで混乱しにくい。譜面で見たり、演奏を聞いた印象より、ずっと弾きやすい曲だ。
だからといって決して単調で退屈ではなく、モダンで洒落た感じの名曲だ。多くのプレイヤーに演奏されているので、お手本にもことかかない。スタイルもしっとりしたバラード調からボサノバまで揃っていてさまざま。伴奏動画はCとBフラットがあるので、管楽器でもそれ以外の楽器でも、すぐ適当なものが見つかるだろう。もちろん練習用としてだけでなく、上達すれば十八番(おはこ)として人に聞かせるにも、なかなかナイスな選曲だ。
ちなみに、この曲が誕生したときは「In Other words」というタイトルがついていて、3/4拍子だった。現在のタイトルと形になってからは、フランク・シナトラが歌ってヒットさせ、アポロ宇宙船の中でも流れていたそうだ。それから50年後の今年、人類をふたたび月面に送るアルテミス計画が進行中で、今回は日本も参加している。この曲がまた宇宙船で流れるのかもしれない。