バイオリンにはファインチューナーという器具がある。弦の末端で、微妙な音程を調律するものだが、入門用にはすべての弦についているのに、多少とも上級なものには、一番高い弦にしかついてない。素人向けの器具というわけではなく、高い弦用の1個だけは、プロもつけている。これなしで調律できないとだめなのだろうと思い、新しいバイオリンは、残り3本にファインチューナーをつけないで調律することにした。
だが、ファインチューナーなしで調律するのは実に大変な作業だ。力任せにぐいぐい回すだけならできるが、微妙な調節の段になると、1度にも満たない角度を回さなくてはならない。木の穴に木の杭を差し込んだだけのものなので、すぐ回しすぎたり足りなかったりする。ゆるく差し込んであると弦の張力で巻き戻ってしまうので、押し込みながら回すのでなおさら回りにくい。同じ調律でもギターは歯車がついているのでずっと楽だ。なぜバイオリンはそういうふうに進化しなかったんだろう。調律の時はどうしても憤怒の表情になってしまうが、プロも同様で、楽器のお尻をお腹に押し当ててよいしょという感じで回している。この作業は小学校低学年には無理だろうと思うが、何歳くらいからできるようになるのだろうか。
ブリッジも自分で立てたが、調律で弦を巻き上げるにつれて引っ張られて前倒しになり、つま先立ちになってしまう。弦の力でがっちり押し付けられているものを、これまた渾身の力で、ほんのちょっとだけ傾きを直してやる。華奢なものなので、ボキッといってしまわないか、ドキドキだ。ブリッジを動かすと、4本の弦すべて調律が狂うので、また調律のやり直し。そうこうするうちに、なんとか音程が合ったころには、指が痛くて演奏する気にならなくなる。バイオリンの演奏家(だったと思う)は、指先のデリケートな感覚を守るため、ちょっとした怪我もしないように手袋をして寝ると聞いたことがあるが、こんな力仕事をしたら手袋もへったくれもないような気がする。
ともあれ新しい楽器は楽しい。前のに比べて大きくて力強い音が出るようになった。まだ堅い感じがするし、第2弦のDの位置で少しかすれるような気がするが、新品だから、これから徐々に調子が上がっていくはずだ。




