ウィンドリバー

2018年日本公開の、実話に基づいたミステリー映画。アメリカの僻地、極寒の先住民族居留地で起こった殺人事件を、地元のベテランハンターとフロリダから呼ばれた女性FBI捜査官が追う。どのシーンも無駄なくサスペンスでハードボイルド、軽薄でない、重量級のかっこよさが満ち満ちている。

極寒の冬は、どんなに明るく晴れ渡っていても、すぐ身近に死の危険がある過酷な世界だ。この絵になりにくく、暖かい地方の人には理解してもらいにくいことを、映画は冒頭から突きつけてくる。それだけで、北海道民の心を鷲掴みである。

主人公を演じるジェレミー・レナーが渋いのは言うまでもないが、ヒロインのエリザベス・オルセンも良かった。作品のシリアスさにちょっと不似合いな、愛嬌のある美女という雰囲気だったが、抑えた演技で、最期はしっかりタフなところを見せてくれた。

少数民族の、しかも女性の置かれた環境、閉鎖的な地域社会に内在する闇など、社会的なテーマもきっちり描いているだけに、そこに目を奪われがちだが、シャープなアクションやリアルでクールに描かれた大自然、そしてとにかく重くかっこいいセリフなど、エンターテインメント性も抜群である。
監督・脚本のテイラー・シェリダンは、なんとこれが初メガホン。名前を覚えておいて、次回作にも期待せざるを得ない。

運び屋

2018年封切りの、クリント・イーストウッド主演・監督映画。90歳の麻薬の運び屋の実話に基づいた作品で、主人公は87歳のイーストウッドが演じている。
クリント・イーストウッドと言えば、我々の世代だとマカロニ・ウェスタンやダーティハリーを真っ先に思い出すが、その後の監督業で、アカデミー受賞2作を含む数々の名作を生み出している。音楽監督、作曲家としても活躍していて、まさに映画界の巨人だ。

もちろん大好きな監督なのだが、映画作りが上手すぎて、作品世界に没入させられてしまうので、気力体力が充実してないと見られない。監督第一作の「恐怖のメロディ」からして、世の中にストーカーという言葉すらなかった時代に、DJファンの妄執のすさまじさを見せつけられてトラウマになってしまった。

その「運び屋」だが、主人公は90歳の農園主で、家族より仕事や仲間との交際を重んじて過程を顧みず、妻子からあいそをつかされて独居生活。そのうえインターネット時代に乗り遅れて農園が立ち行かなくなってしまう。そのうえ麻薬組織からの誘いに乗って、運び屋を始めることになる。思わぬ大金を手にしてすべてがうまく回り始めるが、当然見ている方は、悪い予感しかしない。

ところがそこからがこの作品の真骨頂で、予想通りのバッドエンディングながら、「何歳になってもゼロからやりなおせる、したたかな人間の物語」を観たような爽快さを感じさせてくれる。映画評の中には、齢をとって動作が衰えたイーストウッドが痛々しい、という声もあるが、それも90歳の演技をしていただけで、本人はまだまだしゃきっとしているらしい。「ミリオンダラーベイビー」でアカデミー最高齢受賞の記録を作ったのも、すでに15年前。なんと今年も「The Ballad of Richard Jewell」という監督作品が公開されるらしい。

トイ・ストーリー

トイ・ストーリー4が劇場公開中だ。毎回卓越したストーリーで、決して期待を裏切らないシリーズだけに、行きたいのはやまやまだが、良い子達と一緒になって「ウッディがんばれ!」とか叫ぶのもどうかと二の足を踏んでいる。最近は同じ格好を続けるのが辛いし...。

トイ・ストーリーの主人公たちは、子供の情操を育む天然素材などではなく、プラスチッック製だ。主人公もメディアとのタイアップから生まれた商業主義の賜物で、相棒も安っぽいギミックを組み込んだ大量生産品。仲間たちも対象年齢を超えてしまった幼児向け玩具ばかりだ。しかも壊れやすく、燃えやすく、ほんの一時期子供の興味をひいても、すぐに飽きられてお払い箱になってしまう。

おもちゃたちは、人間がいないときには自由に動き、しゃべることができるが、話す内容は持ち主のアンディが自分たちに飽きて屋根裏に押し込まれるのではないか、いっそ捨てられてしまうのではないか、ということばかりだ。そして人の気配を感じるとその場に倒れ、眉一つ動かさず、魂のないおもちゃの「演技」をする。演技中は、いたずらっ子に乱暴に扱われようと、間違ってガレージセールに出されそうになろうと、仲間が連れ去られようと声一つ立てない。実に健気ではかない存在だ。

また、すぐに不安や疑心暗鬼にとらわれて仲間割を起こすなど、心も弱い。が、最後は自分たちを宝物だと思ってくれたアンディを信じ、さまざまな危険を乗り越えて、バラバラになった仲間を助け出し、アンディの家へ帰ろうとするのだ。

やっぱり映画館はやめよう。「このおじいちゃん、泣いてるよ」とか言われそうだ。