MIDIの話/初音ミク登場前夜

MIDIの話をもう少し.オーケストラを呼んで,自分の好きなように演奏させてみたい.そんな夢にも思わなかったことが出来るようになる.MIDIを最初に知った人は大抵そう思う.ジャズや歌謡曲のファンでも,なぜか「オーケストラ」が頭に浮かぶらしい.ともあれブキッチョだったり,時間が無い人でも演奏が出来るようになり,音楽の新しい可能性が開かれる.当時誰もがそう思った.

だが,著作権組織はそうは思わなかったらしい.MIDIは楽譜やCDのコピーではないので,例え人気絶頂の流行歌をMIDI化しても,規制する根拠がはっきりしない.一度データ化されると,一切劣化することなくコピーされてしまう.それに恐れをなしてか,徹底的に弾圧を行なった.
MIDI装置を手に入れても,初心者が最初から作曲できるわけではないから,既存の曲のコピーを打ち込む.うまくできれば公開して聞いて欲しい.そんな素朴な気持ちでの雑誌投稿でも,多少なりとも著作権に抵触するものなら,徹底的に潰して回った.おかげで愛好家はやる気がそがれ,MIDI自体が違法なものであるかのようなイメージが作り上げられた.

海外のサイトでは,完全に著作権に触れるMIDI作品が公開されている.取り締まりきれないのと,打ち込みの努力は認めようじゃないかというところだろう.ここまで徹底したMIDI狩りは日本だけの話である.その可能性にかけていたクリプトン社も,さぞかし落胆していただろうと思う.初音ミク登場前夜の話である.

やがて登場した初音ミクは,主にオリジナル曲を歌った.上手い下手はともかく,「売れそうな歌」ではなく,それまでどこにもなかった,若い人の心情をそのままメロディに乗せたような作品が次々人気になり.それを歌う「歌手」もまた人気になっていった.そして,作者同士の了承だけで,曲にイラストや動画が添えられ,総合的なメディア作品に成長していった.

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