I Can’t Give You Anything but Love, Baby

Jimmy McHugh(1894 –1969)の作曲。

本年最初のパブリック・ドメイン名曲集である。何度も書いたことだが、著作権は作曲者の死後50年でようやく消失するので、パブリック・ドメインの曲となると、我々高齢者でもなじみのないほど古い曲が多い。未だに演奏されている名曲も少なくはないのだが、有名どころを紹介し終えると、自分が知っている曲を聴きごたえのある演奏でという、本カテゴリーのコンセプトを満たすようなものはなかなか見つからない。

この曲は、私も最初は聞き覚えがなかったのだが、ジャズ・バイオリニストが演奏や練習曲としてよく取り上げているので、すっかりおなじみになってしまった。動画も、ジプシー・ジャズと呼ばれるジャズの原型のようなスタイルと、現代的なアレンジがあいまって、古臭さを感じさせない楽しい演奏である。音楽というのはなかなか高度な情報らしく、歳を取ると、1.2度聞いたくらいでは、新しい曲がなかなか覚えられない。そのせいか昔好きだった曲を繰り返して聞くだけになりがちだが、これは年取ってから知った曲だがしっかり頭に残っている。その意味でもお気に入りである。

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I Love Paris

コール・ポーター(1891 – 1964)の作曲。

歌と演奏はTatiana Eva-Marie & the Avalon Jazz Band。演奏スタイルはもちろん、ファッションやロケーションまで、1930年代ヨーロッパの、ジプシー・ジャズの雰囲気を再現している。歌手はいかにも美女風のメイクで愛嬌たっぷりに、バイオリンはうつろな目で淡々と。ジャズと言いながらアドリブが3分未満しかない、ごく短い曲だが、どの一瞬を切り取っても絵になっているのが楽しい。エンディングに「ラ・マルセイエーズ」を持ってくるベタな演出も、ここまで徹底した世界観づくりの中だとピタッと決まる。
よく見るあのマイクも大事な小道具だが、調べてみるとこれはSHUREというメーカーのもので、プレスリーなどのほか、ケネディやキング牧師の演説にも使われ、現在でも大統領就任式に登場するのだという。

古い曲を現代のアレンジで演奏するのもいいが、こんな風に古さをそのまま演奏するのも楽しい。どれもコンテンツとして流通しているのだから、流行にかかわらず好きな音楽を選べるのが、現代のよさだろう。その点我々世代の人間は、若い頃から流行の音楽を追いかけさせられ、追いつけなくなって諦めてしまった感がある。古き良き時代の音楽は、その醍醐味を知る古き良き人間がもっと楽しんでもいいと思う。

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Lover come back to me

Sigmund Romberg(1887 – 1951)の作品。演奏はトミー・エマニュエル。

トミー・エマニュエル(手前)は、アコースティック・ギターの神様と呼ばれ、日本でも人気が高い。名曲Angelinaは、大抵の人が一度は聞いたことがあるだろうし、こんな風に弾きたいという人も多いだろう。が、その神様の演奏についていくもうひとりのギタリストが気になった。Richard Smithというイギリスのギタリストで、2001年のフィンガー・スタイル・ギター大会のチャンピオンだそうだ。偽名みたいな名前の人だが、WIKIPEDIAにも記載があった。「The Entertainer」の動画で人気になったとあったが、今回紹介した「Lover Come back to me」と同じ日の録画で、1千万回も見られている。観客もそれほど多くなく、リラックスした雰囲気が伝わってくる良い動画だ。本人の公式サイトには、The Entertainerの楽譜と教則ビデオが$10で販売されている。
※肝心のLover come back to meについて、何も書いてなかった。邦題は「恋人よ我に帰れ」だが、始めて題名を聞いた時は「我に返れ」だと思って、半狂乱の女を男が必死でたしなめる光景が目に浮かんだ。

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