魂柱記

今日はバレンタインデー.そういえばこれまで,本命チョコをもらったことがない.61歳といえども,ティーンエージャーの頃には,すでにもらってる奴はもらってた.くそ、つまらんことを思い出してしまった.若い人に聞かれたら,戦後のドサクサでそれどころじゃなかったと言おう.最近はこれでケムに巻くのが得意技だ.実際は終戦後ずいぶん経ってから生まれたわけだが,若い人は基本的に素直だから,黙って感心してくれる.いっそ2.26事件を使ってみようか.

さて,以前書いた「香り立つバイオリンの調べ」では,ケースのおまけについてきたバイオリンの魂柱を適当に立てて試奏するも,一番高い弦のAの音が出ないまま放置したが,気分も新たに魂柱の調整に取り組んだ.
魂柱の位置魂柱は図のような位置に立てなければならないらしいが,改めて自分の立てた場所を覗き込んでみると,前後で見るとブリッジに近すぎ,左右でいうとちゃんと片方のブリッジの足の下になかった.
魂柱立ての奇妙な形の部分を引っ掛けて,また倒れないことを願いながらずらしていくのだが,図を見てわかるように,バイオリンの内部は場所によって天地の高さが違う.となると,正しい場所に設置するには,微妙に長さの違う新しい魂柱を何本も用意しないとならないことになるが,なんとかごまかしが効くことを願って,少しずつずらして行った.

弦を緩めてしまうと,また魂柱が倒れるかもしれないので,少しゆるめただけにして,押したり引いたり.結構力がいる上に,ギシギシ音がするのがなんとも不安だ.そうやって魂柱をずらし,弦を貼り直しては鳴らしてみることを繰り返した.が、どんどん悪くなる.以前はAの音だけ出なかったのが,Aの上下の半音まで出なくなった.いろいろなサイトを見ると,魂柱の役割は音を伝えることとあるが,どう考えても単なるつっかえ棒で,しかも音を響かせる役に立ってるかどうかはわからないが,場合によって邪魔をすることだけは確か.そんな厄介者に思えてならない.現代の技術で,もっと合理的な素材なり構造なりが開発できないものか.

鳴った!!
鳴った!!

などとぼやきつつ,所詮オマケのバイオリンだから,これは諦めようと思い始めた.そしダメ元で,激安バイオリンのほうに最初からついてたブリッジと取り替えてみたら...鳴った!
問題の音もそれ以外の音も同じように.以前の寅さんのような威勢のいい音ではなく,やや鼻づまりっぽくなったが,音が出るのである.ブリッジのせいか,それともいじくり回した魂柱との総合的なバランスか.何でもやってみるものだ.ただし,もともとこのブリッジは弾きにくいのでとりかえたくらいなので,扱いづらい.そのうち新しいのを削ってみよう.

バイオリンを覚え始めたばかりの時期に,手を加えても惜しくないような2台めを手に入れたおかげで,いろいろ比べてみることができた.それがなければ,ブリッジを修正すれば済むようなことでも,演奏技術でカバーできるようになるまでひたすら練習し続けていたかもしれない.

次回「なんでもアレンジ」(2/18投稿予定)
乞うご期待!

なんでも移調

ネットにはヴァイオリン演奏だけでもさまざまな動画があり,「sheet music」と曲名を検索すると,大抵の曲の譜面が見つかる.ただしそのままだと弾きづらい事が多いので,AやDに移調してしまおう.すると随所にAやD,つまり2弦や3弦の開放弦が表れるようになる.指使いが一息つけるので演奏がぐっと楽になるのだ.
例えば「雨に唄えば」は,ジーン・ケリーの声に合わせたGの曲で,楽譜もGが多いが,Dに移調して弾いてみると,驚くほど指使いが楽になる.また、ごく限られた音を繰り返しているだけなことにも気がつく.

移調マシン移調などというと難しそうだが.こんな秘密兵器を使えば案外簡単にできる.紙で2枚の円盤を作り,半音階を順番に書き込んで真ん中を画鋲で止めるだけだが,頭だけで考えたり,譜面で五線の数を数えるよりずっと楽だ.もちろん,C,C#,D,…ではなく,ド,ド#,レと書いてもいい.元の譜面があるなら,このやり方で1音づつ移し替えていけばいい.手間はかかるが,曲を覚えられるというメリットもある.

工作の話と違って,多少なりとも演奏に関わる内容はどうも書いていて気が引ける.こんなのを読んでもらっていいのか.せめてものお慰みに,バイオリンの名演奏を紹介しておこう.

スイング時代のジャズギターの巨匠ジャンゴ・ラインハルトと,長らくコンビを組んで活躍したバイオリニスト,ステファン・グラッペリによる「My Blue Heaven」.グラッペリはジャズ・バイオリンの近代的なスタイルを作っただけでなく,1997年に87歳で没するまで,若いアーチストと共演を行ってきた.つまり,たいていのことはこの人がやり尽くしてしまったので,どのジャズ・バイオリニストが弾いても,グラッペリ風になってしまうような気さえする.

次回「魂柱記」(2/14 AM0:01 投稿予定)
乞うご期待!

それで,上手になったのか?

今まではバイオリンを修正する話ばかりだった.では,肝心の演奏が上手になったのかと言われれば,自分としては最初とは格段に違う,とは言える.もちろん人に聞かせられるレベルじゃない.一曲通してミスなしで演奏できるレパートリーもない.だが,逆に「おっ,ここはうまく行ったぞ」とか,間違って出した音がかえってかっこよくて,「今度からこれで行こう」と悦に入ることもある.練習と言っても,苦行や我慢をしているわけではない.自分程度の年齢になれば,これまでで一番辛かった時期のことを思えば,たとえさっぱり上達しなくても,のんびりバイオリンを弾いてる時間など夢のひとときだ.

さて,私はどんな曲をどう練習しているか.基本的に古い曲を探すことにしている.これは,万一人前で披露することになった場合,著作権が切れたもののほうが安心だからだ.最近は著作権の管理が厳しくなり,名曲喫茶やライブハウス,ダンス教室まで,踏み込まれて数年分の使用料を請求されるケースが増えている.その結果廃業したところも多いという.
また,古い曲は良い曲が多い.素直でシンプルなメロディでありながら優雅さがあり,幼稚にきこえない.そんな理由で選んだ曲のひとつが「私の青空/My Blue Heaven」だ.

これは有名なエノケンの歌.流石にリアルタイムで聞いた世代ではなく,ちょっと古くさく感じるが,
良い曲のいいところは,新しい感覚のアレンジにも耐えるところだ.

こちらも同じ曲.テンポも早く,アレンジも新しい.一説によれば,曲というのは音階とリズムの順列組み合わせなので,いつか出尽くしてしまう.鼻歌や簡単な楽器で演奏してもシンプルで美しく感じるような良いメロディは,賛美歌や古いポピュラー曲で使われてしまってるので,新しい曲は,歌うのが難しく,複雑なアレンジをしなければならないものが多くなってしまったのだという.本当かどうかは分からないが.

また,スローテンポの曲は避けている.ゆったりとした調べはバイオリンの魅力の一つだが,下手がやるとアラが目立つ.ミディアムテンポ以上で,チャカチャカとノリのいい曲なら,なんとかごまかしが効く.

「私の青空」は,古い曲ならではのシンプルさのおかげで指使いもそれほど難しくなく、我ながらうまいところを選んだと思っていた.最近は誰も歌ってないので,リバイバルヒットに乗っかってるようにも思われない.自分のめのつけどころを自画自賛してたら,さっそくコンビニのBGMで流れてた.どこも著作権のがれに,同じことを考えているのだ.
それにつけても,歌詞がいい.

せまいながらも 楽しい我家
愛の灯影(ほかげ)の さすところ
恋しい家こそ 私の青空

果たして今の時代に,こんな言葉を心から言える人がいるだろうか.

次回「なんでも移調」(2/10 AM0:01 投稿予定)
乞うご期待!