インディアナポリス号の惨劇

久しぶりに映画「ジョーズ」を観た.さすが名作だけあって,ストーリーもアクションシーンも,今見ても全く面白さは失われていない.ところがその中に,何度も観たはずなのに,すっかり忘れていたシーンがあった.鮫狩りに参加した地元漁師サム・クイントが,太平洋戦争中の体験談を語るシーンである.

太平洋戦争終盤の昭和20年,サムは米巡洋艦インディアナポリス号の乗員で,秘密任務の帰路,日本海軍の伊号潜水艦に撃沈された.そして千人以上が海に放り出されたが,極秘作戦のため救難信号が打てず,救援が来るまで100時間以上もかかった.その間,仲間が次々に鮫に襲われていき,最終的には300人程度しか生還できなかったという話である.映画の中では,サムの語りだけにもかかわらず,ジョーズの襲撃シーンにも劣らない迫力だった.

この話は実話なのか創作なのか.「インディアナポリス号」で検索してみたところ,実話も実話,タイタニックと並び称されるほど有名な海の惨劇だった.その鮫との戦いの様子は映画よりさらに陰惨で,正直ちょっと検索したことを後悔したほどだ.
撃沈した伊号潜水艦は,本来内部に水上飛行機を積んでいて,当初はアメリカ本土の空襲を行っていたが,すっかり戦局が不利になったこのころには,人間魚雷「回天」を搭載していた.ただし,この時の攻撃に使われたのが回天かどうかはわからない.映画では救難信号を打ってなかったことになっていたが,実際は発信されていた.にもかかわらず救難が遅れたのは,米軍内部に派閥争いがあってコミュニケーションがうまくいっておらず,信号を受けてはいたが,日本軍に対する欺瞞作戦の一種と判断されたため,救難活動が遅れたのだという.まったくどこをとっても皮肉で救いようのない話だが,極めつけは,インディアナポリス号の秘密作戦の内容が,広島に投下した原爆の輸送だったことだろう.

 

バレンタインスペシャル / 君の名は。

バレンタインデーにちなんで、このブログの読者は多分見てないと思うが、気にはなっているであろう「君の名は。」を見た。広告関係者として一見の価値ありなので、レンタルに降りてきたらと思っていた。が、大変なヒットになってしまい、いつになるかわからなかったので。「結婚したくなる映画」というレビュー記事があったことも気になっていた。はたして何か新しいトレンドが生まれたかどうか。

新海作品の特色は、背景画像の美しさだ。それも、駅のホームや雑居ビルの立ち並ぶ街角、ごく普通の住宅地の家並みなど、本来それほど美しくはないはずの光景に、丹念に光の装飾加えて、夢のような光景に仕上げる。
恋人ができたり、入試に合格したり、大金が手に入ったりというような、人生の幸福の絶頂には、アドレナリンが湧き出し瞳孔が開いて、いつもの風景もこんな風に見える。その瞬間を再現してみせたような背景である。日常生活に直結している分だけ、世界自然遺産やマハラジャの宮殿よりずっと良い舞台装置だ。その中でなら、どんな商品もさぞ魅力的に見えるだろう。

わざわざ見に行く気のない人のためにざっくりいうと、同じ監督による以下のCMがこの映画のエッセンスだと思っても良いだろう。

親の経済力の差が子供の学歴の差になると言われている時代に、通信教育だけで、離島の少女と都会のアルバイト少年が東大に合格するばかりか、恋人までできてしまう。普通はそんなCMを流せば噴飯モノだが、新海ワールドの中なら、それもアリかなという気になってしまう。聞き取りやすい日本語の曲が前面に出るという、PVやCM的な手法も、映画と同じだ。

我々世代向きの作品ではないのでオススメというほどではないが、映像のヒーリング効果はなかなかのものである。ネタばれせずに書けるのはこんなところなので、そのうち内容について書くかもしれない。

 

ジャイアントロボとワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団

横山光輝作の漫画「ジャイアントロボ」が,1992年から全7巻のアニメになった.内容は三国志や水滸伝,鉄人28号,魔法使いサリー,仮面の忍者赤影など,横山作品オールスター総登場のオリジナル・ストーリーで,原作とは関係がないという怪作である.

92年と言えばバブル崩壊に片足を突っ込んだ時期.BGMをフル・オーケストラに演奏させるという,バブルな計画が進んでいたこのアニメも,先行きが怪しくなってきた.国内でオーケストラを使うと莫大な費用がかかる.そこで,ポーランドのワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団に打診したのである.

ポーランドは1989年にソ連邦から離れたが,市場経済の道は厳しく,それまで国策として手厚い支援を受けてきた交響楽団も,経営が厳しくなっていた.そこへ日本からのオファーである.日本のアニメなど,今ほど有名ではなかった時代だから,内容はよく分かってなかったとしても不思議はない.
制作側からすれば,バブル崩壊したとは言え,東欧の物価は桁違いに安い.彼のショパンの国の,国立フィルハーモニーという敷居の高さを乗り越えてみれば,両思いみたいなものだった.

「ジャイアント・ロボ TheAnimation-地球が静止する日」メインテーマ

MIDIでも構わないようなアニメのBGMにフル・オーケストラなど,前代未聞だったが,さすがに本物はすごかった.ロボットが取っ組み合いをしているだけなのに,感涙がこみ上げてきそうになるのである.

作品はその後,6年の年月をかけて全7巻で完結した.世の中がじわじわと「失われた20年」に進んでいく中で,なんとかクオリティを下げずに作り続けたため,超スローテンポになってしまった.ワルシャワ・フィルは,この作品を機に日本との縁が出来上がり,今でも,アニメやゲーム,テレビドラマなどに,ちょくちょく登場している.