米アカデミー賞、受賞基準を制定

アメリカの映画芸術科学アカデミーは、2025年以降の選考基準として、主演か助演の俳優のうち、少なくとも1人はアジア系、ヒスパニック系、黒人などであること、それ以外の出演者のうち少なくとも30%は、女性や性的マイノリティー、障害者などで構成されること、映画のテーマが、こうした人たちに焦点を当てていることなどの条件を発表した。

本ブログでも以前、最近のハリウッド映画は主要な配役の中に黒人や女性を、ことさらに知的で善良、かつ社会的ステータスの高い役としてキャストしているようだという記事を書いたことがある。(ハリウッドの黒人枠)この記事は本ブログでも隠れた人気があり、やはり同じように感じる人がいるのだなと思っていたのだが、なんとこのたび、前述のような基準が制定されたという。あきれるやら、なさけないやらである。

ハリウッドはこれまで、作品を通じて差別など社会の暗部を描き出し、アカデミーはそれを賞することで社会にアピールしてきた。今回の発表は、これまでのハリウッド映画界のヒューマンなとりくみを、ただのお役所仕事にしてしまう愚行である。キング牧師やマルコムXも「そういうことじゃないんだよ」と言うに違いない。

「正しい」配色で塗り分けられたオスカーは、黄金の輝きを失う

それでも私は、子供の頃から親しんできたハリウッド映画界を信じている。新基準を一切満たさない傑作や、行き過ぎたマイノリティ擁護活動の闇を描くような勇気ある作品が、アカデミー作品賞をもぎ獲ってくれるだろうと。

スノー・ロワイヤル

2019年公開のアメリカ映画。レンタルショップの謳い文句に、「除雪作業員が繰り広げる、サスペンスアクション!!」とあり、なんじゃそりゃと思ったが、除雪と聞いて北海道民は黙ってはいられない。ぜひとも除雪っぷりを見極めてやらねばならぬと視聴することに。

いやあ、観て良かった。主演はシンドラーのリストのリーアム・ニーソン。R12なので、流血シーンなどはあるものの、全体的に非常に美しい風景とテンポの良いストーリー、クールなギャグも盛り込まれていて完成度が高い。あまりあらすじに触れたくないので、以前紹介した、同様に雪原を舞台としたアクション映画「ウィンドリバー」と比べると、ウィンドリバーが気の利いたセリフが印象的だったが、こちらはあくまで画面とカットで何が起こってるか伝えていく感じだ。どちらもクールで丁寧に作られていて、最近は上質なアクション映画が増えているのかなと感じた。

ただし、邦題はいただけない。原題はColdPresuit(冷たい追跡)だが、スノー・ロワイヤルという意味不明なタイトルのせいで、かなり借りるのを躊躇した。他にも邦題のせいで多くの良い映画を見逃していると思う。情報化時代と言いながら、ネット上には提灯記事とアンチのヒステリックな悪口ばかりで、良い映画に巡り合うための情報は相変わらず知人からの口コミしかない。
ちなみにこの作品はリメイク版で、前作のタイトルは「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」。これもひどいね、間違ってはいないけれど...。

レッド・オクトーバーを追え!

2018年1月、中国人民解放軍の所有する商級原潜が、東シナ海の公海に浮上し中国国旗を掲げた。対潜能力世界一と言われる海上自衛隊に2日間追い立てられ、逃げ場を失って浮上し、いわば白旗を掲げた形である。このとき、映画「レッド・オクトーバーを追え!」を見たことのある人は、快哉を叫んだかも知れない。

「レッド・オクトーバーを追え!」は、トム・クランシーのデビュー作で、世界的ベストセラーになった同名小説の映画化である。この作品をまた見ようと思ったのは、ネット上の評価が大きく別れていたから。名作だという評価に対し、「長くてテンポが悪い」「難しい」などの意見もあり、私はこれは世代の差だろうと考えた。

小説が発表され、また物語の舞台となったのは、ゴルバチョフ政権発足直前の1984年。映画の封切りはソビエト連邦崩壊前年の1990年。20世紀の一大エポックともいえるソビエト共産党政権が内部から崩壊し、東西冷戦が終息しつつあった時代だ。当時の多くの人は、ソビエトの体質、冷戦の構造と原潜の脅威などについての知識を、多かれ少なかれ持っていた。それらを前提にしたこの作品が、冷戦終結後に生まれた人も多い現代でわかりにくいのも当然かも知れない。
長くてテンポが悪いという批判は、当たっていなかった。海中での潜水艦アクションだけでなく、陸上での行動や会話のすべてが、大都市への核攻撃や米ソの直接戦闘を引き起こしかねない。そんなスリリングなシーンだけでできている映画と言ってもいいほどなのだが、これも当時の時代感覚がないと、スリルのツボを味わいきれないかも知れない。

現実世界でも原潜の役割はレッド・オクトーバーの時代から何も変わらず、対潜水艦作戦は現在でも続けられている。そのことが垣間見えたのが、中国原潜の浮上である。原潜は何ヶ月も浮上せずに行動でき、一度見失うと発見は難しい。ある日突然東京湾に浮上して、核巡航ミサイルで日本を恐喝することも可能だ。原潜所有国は、横綱のいる相撲部屋のようなものだ。
一方水中では目視もレーダーも効かないため、いかに原潜でも、深海に沈められてしまえば発見はほぼ不可能だ。攻撃を受けたことを証明するものはなく、そんなものは知らないと言われれば、それ以上抗議もできない。そんな中で徐々に海淵部へ海淵部へと追い詰められていくのは、二日間拳銃を頭に突きつけられ、カチン、カチンと空撃ちされ続けるのと変わらない。発狂するものや、これを機に退役するものが出ても不思議ではないくらいだ。名誉や誇り、与えられていた命令をすべてかなぐり捨てて、国の財産である原潜と乗組員を守ることを選んだ、というのがあの浮上と国旗掲揚である。相撲に例えれば、日本は小兵力士ばかりだが、多彩な技の修練に余念のない横綱キラーばかり揃った、ヤらしい相撲部屋という感じだろうか。

「レッド・オクトーバーを追え!」は、世代によって評価の変わる、要するにジジイ世代の映画である。あらためて見終わって、つくづくジジイでよかったと思う。
ついでながら、今年5月公開予定の「GREYHOUND」の予告を。

「潜水艦映画に駄作なし」(ただし某日本映画を除く)とまで言われたジャンルの、期待の新作。第二次大戦中の、Uボートとの戦いらしい。”らしい”と書いたのは、ネタばれがいやで自分では予告も見ていないから。だが、原作は海洋冒険小説の金字塔「海の男ホーンブロワー・シリーズ」を書いた、セシル・スコット・フォレスター。主演はなんとコロナ感染前のトム・ハンクスである。劇場鑑賞は体がきついのでスター・ウオーズで打ち止めかと思っていたが、これはアリではないかと思う。5月ならコロナ終息を期待して、大画面で観たついでにちょっぴり経済を回すのも悪くない。