キャサリン・ジョンソンと映画「ドリーム」

当サイトの記事で、「8月26日は、キャサリン・ジョンソンの100歳の誕生日」という投稿のアクセスが多い。NASAのブログで知って、紹介したかっただけで、この人物について詳しいわけではないのだが、アメリカではバービー人形になるくらいにインスパイアされている。また、「ドリーム(2016)」というタイトルで映画化されているので、レンタルで観てみた。

実に良い映画だった。映画を見るきっかけになった来場者の方々に感謝している。主演は個性派黒人女優のタラジ・P・ヘンソン。美女のようにも、ただのおばさんのようにも見える存在感のある女優で、TVシリーズなどで活躍している。キャサリン・ジョンソン本人とはかなり違う風貌だが、エンジニアや軍人という男性社会の中で、黒人、シングルマザーのハンデを乗り越え、実力で立場を築いてゆく力強い役どころにぴったりだ。

このほか、魅力的な2人の黒人女優が、主人公なみの活躍をする。プログラマーのドロシー・ヴォーンを演じたオクタヴィア・スペンサーは、「シェイプ・オブ・ウォーター」で、物分りの良い同僚のゼルダを演じた。エンジニアのメアリー・ジャクソンを演じたジャネール・モネイは、出演作は少ないが、ミュージシャン、モデルとしても活躍中で、ホイットニー・ヒューストンを思わせる。この3人が、技術屋や軍人ばかりで、黒人や女性への差別の残る職場で、プロフェッショナルの立場を獲得してゆく。
本部長役にケビン・コスナー。「これだけは覚えておけ、1つは残業が日常になること。もうひとつはその働きが給料に反映されないこと。できない者はこれまでの努力に感謝する」と言ってのけるブラック上司だ。才能と結果だけがすべてなインテリ・マッチョだが、キャサリンの才能を見出し、NASAに残る差別的慣習をぶち壊してしまう。尊敬すべき人物だが、あまり部下にはなりたくない。ケンカでも負けてしまうし。

そしてもうひとりの主人公が、NASAに初めて納入された汎用電子計算機(コンピュータ)「IBM7090」である。計算係の女性たちが解雇されるかどうかの鍵を握る存在なのだが、女性たちは、黒人に閲覧禁止になっているプログラミングのテキストを盗み出して勉強会を始める。トイレや水飲み場など、あちこちに貼ってあった「非白人用」の表示をもじった、「非白人用コンピュータ」をスローガンにして。

米国初の有人宇宙船フレンドシップ7の打ち上げが迫る中で、キャサリンが新しい「計算式」ではなく古いやり方で行こうと言うシーンも印象的だ。ここには「コンピュータがあるのだから」という言葉が省略されている。

もし大昔に1から1兆までの合計を出そうとすれば、絶対に計算間違いをしない専門家を集めて筆算するしかないが、実際にやれば何年もかかっただろう。そこで数学者は、実計算しないで済む「公式」を考え出した。それによれば、1と1兆を足し、1兆をかけて2で割れば合計が出る。(なぜそうなるかはわからないが)。
コンピュータがあるなら、例えば1兆までの合計も、1の次に2、その次に3...というように順番に足していくように命令するだけで、公式はいらない。キャサリンは軌道計算のための膨大な計算も、公式を導き出そうとしないで、単に片っ端から超スピードでコンピュータにやらせてしまえばいいと指摘したわけだ。19世紀までの数学者が、到底人の手では実現できない計算を行うための公式を考えたり、それすらできなくてあきらめていたことが、コンピュータの登場で可能になった。そんなコンピュータ本来の恩恵が、うまくエピソード化されていたと思う。

ちなみに当時のコンピュータは、現在に比べればオモチャにも劣るというのは正しくない。コンピュータの性能は使う人の能力で決まるから、旧式の電子計算機でもキャサリン・ジョンソンが使えば宇宙船の軌道計算ができるが、最新式でも私が使えば、でれっとDVD鑑賞というのが関の山ということになる。

2019年6月、 3人の功績を称え、NASA本部のある通りが、映画の原題にちなんで「Hidden Figures」通りと改名された 。

https://www.youtube.com/watch?v=y6NGgs8S4qs

ウィンストン・チャーチル

第二次大戦時のイギリス首相、チャーチルが行った、歴史を変えたと言われる3つの有名な演説をテーマにした映画だ。主演は名優ゲイリー・オールドマン。と知って、体格と顔の、余りの共通点の無さに驚いたが、それを乗り越えて見事にチャーチルを生み出し、アカデミー主演男優賞とメイクアップ賞を獲得した。

チャーチルは当時としても飛び抜けた主戦派で、第一次大戦では閣僚の座を辞してまで戦場で戦うことを選び、また、インドの独立を嫌ってガンジーを攻撃したほどの、徹底した帝国主義者でもあった。映画では彼が、ナチスドイツの猛攻を前に新首相に就任し、講和を求める前首相のチェンバレンを退け、イギリスに徹底抗戦の道を歩ませるという物語である。
山場は、講和か抗戦かで悩むチャーチルが初めて地下鉄に乗って、ナチスと戦おうという市民の思いに触れる場面と、さらに議会で抗戦を訴える演説で、野党を含む全員の喝采を浴びる場面だろう。現代の日本人からすれば、演説の巧みさで国民を殺し合いに駆り立てたかのようなストーリーに、違和感があるかもしれない。ヒトラーもチャーチルもどっこいどっこいじゃないか、というような。

少々映画からは離れるが、これにはヨーロッパの歴史が背景にある。国と国、領主と領主が長い間戦い続けていたヨーロッパでは、戦争に勝った者がすべてを得て、負けた者はすべてを差し出すことを繰り返してきた。つまり、敗戦国が再び繁栄を取り戻すためには、戦争を起こして勝つしかなかったのである。第一次大戦も同様で、敗戦国のドイツには莫大な賠償金が課せられたため、乱暴な言い方をすれば、困窮のどん底に突き落とされたドイツ国民は、ヒトラーでなくても、戦争に勝利させると約束する者の登場を待ってた状態だったのである。
勝者のイギリスからすれば、ドイツの軍門に下れば、自分たちがやったことをやり返されるわけだから、どんなひどいことになるかはっきりと理解していた。市民までが「奴隷にはならない」と叫ぶのは、文字通り奴隷にされる可能性があったからである。

第二次大戦後の連合国による戦後の世界体制づくりでは、この教訓が生かされた。日本ほか敗戦国に対する賠償金を放棄し、国際的な復興援助まで行われた。ここで人類は、敗戦による国の困窮から脱するために開戦するという、無意味な繰り返しから脱却したのである。チャーチルの演説が歴史を変えたというのは、そのことを指している。

ジュラシック・ワールド/炎の王国

ジュラシック・パークシリーズは、映画館で封切りを見ることに決めている作品だ。その最新作「ジュラシック・ワールド/炎の王国」を見てきた。ジュラシックシリーズは、天才マイケル・クライトンが発表した時に映像化は不可能と言われていた小説を、もうひとりの天才スピルバーグが映画化した作品だ。世界中に無数にいる恐竜マニアのための映画で、毎作最新の恐竜研究の成果が反映されているのも楽しみのひとつだ。

第一作では、小型だが人間を騙すほど知能が高く、集団で狩りをするヴェロキラプトルという、新しい恐竜界のスターを登場させた。第二作「ロストワールド/ジュラシックパーク2」では、ティラノサウルスが子育てをするという学説がテーマになっている。第三作「ジュラシック・パーク3」では、ヴェロキラプトルが声でコミュニケーションをとっていた。第四作の「ジュラシック・ワールド」に先立って、恐竜愛好家の間で大きな問題が起こっていた。それは角のある恐竜で有名なトリケラトプスが、よく似た大型のトロサウルスの子供時代の姿という発表があり、トリケラトプスの名前が消えてしまうのではないかというものだ。実際には、このような場合、先に発表された名前が残るというのが学名のルールなため、無事トリケラトプスの名前が残ることになった。そこでジュラシック・ワールドでは、一瞬だけだが、動物園のふれあいコーナーのように、子供のトリケラトプスと遊べるコーナーが登場した。そして第五作だが、やはり新しい恐竜研究の成果が反映されていたが、それは何かは劇場で確かめてほしい。

今回は主役の恐竜たちの表現や、実写部分の大自然の景観が一段とすばらしい。また、恐竜とからまないアクションにも気合が入っているところや、大スターのティラノサウルスが、絶妙のタイミングで登場して美味しいところをもっていくのも、これまでのシリーズと変わらない。ただし、これまでの作品では絶対になかったことが起こった。それで私はてっきり今回が最終回だと思ったのだが、次回作の封切りがもう決まってるらしい。どうなるんだろう?

ところで、今の映画館は、小さな子どもが動き回ったり泣いたりしても良いという、親子鑑賞タイムがあるらしい。この「ジュラシック・ワールド/炎の王国」も対象作品になっているそうだが、連れて行くのはやめたほうがいいと思うなあ。