一流ジャズプレイヤーをめざす青年を描くアニメ作品。非常に評判がよかったので気になっていたものを視聴した。若者の信念や努力で夢を叶えてゆく、気持ちの良いサクセスストーリーだ。我々高齢者としては叶えられなかった夢や、忘れてきてしまった魂を見せつけられるようでもある。
独学からスタートし、しゃにむに練習を続ける主人公、子供時代から音楽を学んだ理論派のピアニスト、突然ジャズに魅入られ、後先考えずに飛び込んでしまう出遅れぎみのドラマー。ジャズマンを目指す人のありがちなパターンを丁寧に描いてゆく。
テナーサックスだけを抱えて上京し、友人宅に転がり込む。練習に打ち込み過ぎて留年してしまう。先輩プレイヤーに挑戦するかのようなセリフを吐く。主人公たちのやることは若気の至りそのものだが、彼らを見守る大人たちも優しい。才能と練習量だけが求められる世界へ飛び込む厳しさを、誰よりも知っているからに違いない。
ある知人は、その昔突然ジャズに目覚め、連日猛練習を続けた挙げ句に、山下洋輔のコンサートに乱入してサックスを吹きまくった。今なら補導されるところだが、そのままそれなりに吹かせてもらったらしい。そういう大人がいて、無謀さも伝説となって仲間の尊敬を集める。そんなちょっと危なくて懐かしい時代の空気が、画面から伝わってくる。
ストーリーは王道だが、ジャズを全面に出すだけあって、演奏シーンが圧巻である。短めではあるがまるごと1曲分、音楽そのものをビジュアル化したのだから、大変な作業である。登場人物の回想シーンや自分語りも少なく、演奏シーンですべてを表現しようという気概が伝わる。ストイックで緻密な日本のジャズらしさが満ち溢れる作品だ。



